その件は結婚してからでもいいでしょうか
美穂子はゴミ袋を大きくまたぐように、なんとかリビングへと脱出する。
脱出しても、似たような景色ではあるんだけど。床にはいろんなものが散乱している。ゴミ、衣類、山積みになった雑誌や本。しかもなんだかタバコ臭い。
アシスタント部屋ではデスクが置いてある窓際の場所には、壁を背に、大きなデスクがドンと置いてあった。デスクトップのパソコンと、紙の束、ペンたていっぱいのカラーペン。夜にもかかわらず、カーテンは開けっ放し。窓ガラスには、ごちゃごちゃの部屋と、正体不明の男性が写っていた。
それと、間抜けな顔で立っている銀縁メガネの美穂子の姿も。
男性は、デスクの脇に置いてあるダークブラウンのソファから、くちゃくちゃのシャツを床に落とすと「はい、どうぞ」と手で差ししめす。
ここに座れってこと? この、不潔極まりない、このソファに?
美穂子の不満が見えたのか、男性は「汚くないよ」と言い添える。
「買ったばっかりだもん、コレ」
座るかどうか決めかねている間に、男性はキッチンに入っていった。なにやらゴソゴソしている。美穂子は勇気を振り絞り、そのソファに座った。
なんだか布の部分が気持ち悪い。絶対すっごい数のダニがいる。
美穂子は、自然と木製の肘掛の方へ逃げるように身を寄せた。
ソファー前の木製の小さなテーブルの上に、飴の包み紙が散乱している。よく見ると「禁煙飴」だ。
この包み紙の数……。
どんだけなめてんだ。
「おまたせ」
男性がテーブルの上の包み紙を手で床に払うと、どんとカップラーメンを置いた。
「ごはん、どうぞ」
カップラーメンって。
いやむしろ衛生的にはこの方が安心だけども。
美穂子はニコニコしている男性を見上げる。
「……いただきます」
美穂子はカップラーメンに手を伸ばした。