その件は結婚してからでもいいでしょうか
美穂子が食べだしたのを見ると、男性は満足そうにデスクに座った。
ポケットから禁煙飴を取り出し、口に入れる。
ズルズルズル。
麺をすすった。
桜先生のお部屋で、知らない男性に見守られながらラーメン食べてる。
なんだこれ。今のこの状況。
美穂子は「あのー」と声を出した。
「うん?」
肘をついて美穂子を見ていた男性と目が合う。
「桜先生は、お住まいじゃないんですか?」
美穂子は尋ねた。
「住んでるよ」
「だって、あの……」
美穂子は部屋をぐるりと見回す。
完璧な桜先生が住んでいるような部屋にはとても見えない。
「失礼ですが、ご家族の方なんですか?」
美穂子は思い切って尋ねた。
「いや、本人」
男性が言った。
「本人?」
美穂子の箸が止まる。
「だから、本人。はじめまして。桜よりこです」
男性がにこやかにそう言った。
カップラーメンと箸を持ったまま、美穂子が停止する。
「……誰が?」
「俺が」
「桜先生?」
「はい、正解」
美穂子はカップラーメンをテーブルに置いた。
「……嘘ですよねっ!?」
美穂子は大声をあげた。
「嘘じゃあ、ないですけど」
「だってっ」
美穂子の頭の中に、中島悠馬くんの綺麗な顔が浮かんで消えた。
あの漫画を、この人が書いたっていうの?
「冗談? とか」
「冗談ではないです」
「本当に?」
「本当」
美穂子は頭を抱えた。
憧れの桜先生の姿が歪んでいく。