その件は結婚してからでもいいでしょうか
「先生」
美穂子は、濡れてくしゃくしゃになったティッシュで顔を隠しながら、呼びかけた。
「取り乱して、すみませんでした」
するとホッとしたような空気が、先生から流れてきた。
「いや、俺も言い過ぎたな。ごめん」
気まずい沈黙。
美穂子は腫れた目を伏せながら、両手を膝の上で握りしめた。拳のなかのティッシュが固く丸まる。
「先生はどうして、自分が男だって秘密にしてるんですか?」
そうたずねると、先生が首を傾げて、肩を揉む仕草をする。
「うーん、まあ。知ったらみんな、美穂ちゃんみたいに嫌がるだろうなあって、思って」
美穂子の頬が、カアッと熱くなった。
「少女漫画は、女の子のモノだからね。俺みたいな男があんな漫画を描くのは、ルール違反かもしんないな」
先生は立ち上がった。
「ああ、完全にラーメンふやけちゃったな。作り直そうか」
「いえ。大丈夫です」
美穂子は立ち上がった。
「お邪魔しました。もう帰ります」
「どこへ?」
先生が腰に手を当てて、美穂子の顔を覗き込む。
「えっと……」
言われてみれば確かに、美穂子には帰るところがない。
「アシ部屋のソファベッドに行くの?」
「い、いいんですか」
先生が考えるように腕を組んだ。