その件は結婚してからでもいいでしょうか
「ここにいてもいいよ。部屋は一つ余ってるし」
突然、そんなことを言った。
美穂子は思わず一歩下がる。
だって、この人、三次元の男だよ?
「家賃も食費もいらないから、ここの家事してくれない?」
先生は一つため息をついた。
「今、身の回りのことに手が回らなくて、困ってるんだ」
先生は美穂子の返事を待たず、ゴミ袋の山を越えて、廊下脇の六畳ほどの部屋へ行く。
「ここ。客用布団もあるし」
パチンと電気をつけると、そこは……。
「ここは、極楽ですか!?」
美穂子は瞬間的に興奮した。
天井までの本棚に、ぎっしりと先生の単行本と雑誌が並ぶ。
「うわっ。すごいー。これ、雑誌掲載しかされてない幻の読み切りじゃないですか!」
美穂子は雑誌の背表紙を見ながら、興奮が収まらない。
「読んでもいいですか?」
「別にいいよ。あ、それからここに布団入ってるから」
先生がクローゼットを指差す。
そこで、すでに雑誌を引き抜いてめくり始めていた美穂子は、はっと我に返った。
ここに泊まるの?
「あ、あの。まだここにいるかどうか、決めたわけじゃ」
「ゆっくり今夜一晩考えればいいから」
先生はそう言うと、さっさと部屋を出て行く。
えー待って。そんなこと……。
美穂子は雑誌片手に立ち尽くす。
けれどすぐに、手元の雑誌に心を奪われ始めた。