その件は結婚してからでもいいでしょうか

「美穂ちゃん」
扉の隙間から、先生の濡れた髪と目が見えた。

ほんのりと赤く染まった、首と肩の一部も。

美穂子は反射的に飛び退いた。

「美穂ちゃん、お願いがあります」
先生がとてつもなく申し訳なさそうな声を出した。

「……なんですか?」
美穂子は、その隙間をなるべく見ないように答えた。

「パンツ、持ってくるの忘れちゃった」
「は?」
美穂子の苛立ちスイッチが入る。

「リビング横の部屋に、洗濯物がピンチに干したままになってるんだよね。そこから一枚」
「い・や・で・す!」

美穂子は喚いた。

男子のパンツなんか、触れない。絶対やだ。

「でも、パンツがなかったら、服が着られないし」
「汚いから、いやです」
「だから、洗濯したって」
「やだやだやだ」

美穂子がブンブンと首を振ると「わかった」と声がした。

「わかった。じゃあ、俺が『このまま』の格好でとってくる」
「……このまま?」
「このまま!」

美穂子はがっくりとうなだれる。
「とってきます」

「よろしく」
先生の勝ち誇った「わはははは」という声が響いて、美穂子はすでに疲弊しはじめている。
< 21 / 167 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop