その件は結婚してからでもいいでしょうか

「お邪魔しまーす」
八代さんがやってきた。

「与田くん、会うのは久しぶりだね〜」
春色のスカーフを首からとりながら、笑顔いっぱいの八代さんが言った。

「久しぶり」
先生が頭をさげる。

「でも、びっくりした。いつのまにか美穂ちゃんと一緒に住んでるんだもん」
八代さんは勧める前にはもうちゃっかりソファに座っている。細くて長い足を組んだ。
「どういう風の吹き回し?」

「彼女が住むところないっていうから、家事をやってもらう代わりに部屋を貸してるんだ」
先生はすごくフランクに話す。仲がとても良さそうだ。

「めずらしい。自分のテリトリーに他人を入れるなんて」
八代さんはそう言いながら、美穂子をちらりと見る。それから意味ありげな笑みを浮かべた。
「そっか。なるほどね」

「何がですか?」
思わず美穂子は尋ねた。

「もろタイプだよ、美穂ちゃん」
八代さんが言った。

先生が「おい、余計なこというなよ」と慌て出す。

「与田くんが好きそうな感じ。まっさらで、ノーメーク」
「えっ!」

美穂子は思わず一歩下がった。

そうなの? そんな対象なの? わたし。

先生は、狂ったように髪をもしゃもしゃかきまわす。

「いや、違うって。困ってたっぽいから、協力しただけだよ」
「えー」
八代さんが疑いの眼差しを向けた。

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