どうせ好きじゃ、ないくせに。
必死に平静を装おうと意識すればするほど、全身から変な汗が湧き出てくる。
まずい。非常にまずい。
本当に、なんで私がこんな常軌を逸した恐怖を抱えなければならないのだろう。
不自然なほど笑い飛ばす私に、『顔色すごくない?黄色人種みたい』と誰でも知っているようなことを問いかけてくる夏美。
そんな彼女に、説得力がゼロに等しい声色で大丈夫と返した刹那。私のスマホの画面がぱっと点灯し、震え始めた。
その通知を鳴らす人物の名前に気付き、咄嗟に電話を両手で握りしめる。
「電話、出ないの?」
「うん、大丈…」
ぶ、と言い終える前に着信音を鳴らし終えたスマホが、今度はチャットを受信する。
その内容を目にした瞬間、私の体温はまるでコードの切れたエレベーターのように急激に下落した。
「…ちょっと、顔真っ青だけど」
「ちょ、ちょちょっと、あの、行ってくる!」
「え、真湖?!」
がたがたと慌ただしく音を鳴らして立ち上がり、急いでオフィスを飛び出す。
突然放置してぼっち飯にしてしまうのはとてつもなく申し訳ないけれど、だからといって彼のメッセージを見過ごすわけにはいかないのだ。
『休憩室においで』
『無視してもいいけど、困るのが誰かは分かってるよね?』
……たったの二件の通知に、こんなに焦ったのは初めてだ。なんという理不尽。なんて不憫な私。
「あの、脅迫まがいな連絡するのやめてくれませんか?!」
ばんっと勢いよくドアを開いて、開口一番にそう文句を投げ付けた。
奥のテーブルに腰かけている姿さえ様になっているグレーのスーツの"彼"は、肩で息をする私を見て愉快そうに微笑むと、躊躇せずに歩み寄ってくる。