どうせ好きじゃ、ないくせに。
1.未定

10日ほど前のことだ。


性格上、飲みの席がどうも苦手な私は、普段ほとんどの飲み会の誘いを断っていた。

そこまでしつこく誘ってくるような人もいなかったし、もともと三口も飲んだら顔が真っ赤になるくらいアルコールに弱いので、下手に行ったほうが迷惑になると自負していた。


だからその日も、断る気満々だったのに。



「ええー佐岡先輩行かないんですか?俺たち新人の歓迎会なんだから参加しましょうよ、薄情だなー」


「そうですよ先輩、私たちのこと歓迎してくれないんですか…?!」


「い、いや、そういうわけでは…」


「じゃあ来てください!!」



何かと慕ってくれている一年目の鈴木くんと春川さんがやたらと情に訴えかけてくるので、どうにもこうにも断れなくなった私は、結局飲みの席に足を運ぶことになってしまったのだ。



「おー佐岡、今日は参加するのか」



最後の最後まで私が粘っていたため、指定の焼き肉屋に着いた時には既にみんな出来上がっていた。

真っ先に私に気付いた部長の息がひどく酒臭くて、もう今にも酔いが回りそうだったが、なんとか持ちこたえて招かれた席まで移動する。(ちなみに鈴木くんと春川さんは主役のため、強制的に手前の席へ座らされていた。)



「お疲れ様、残って仕事してたの?」



私の席は店内の一番奥だ。ひっそり帰っても気付かれなさそうな場所でよかった。と、腰を下ろし息をついたところで、隣に座っていた男性社員がそう声を掛けてくれた。



「あ、いや…」



行きたくなくてぐずってたなんて言うわけにいかないよなあ、と返答に困っていると、その男性がとても自然な素振りでメニュー表をテーブルの上に差し出してくれる。

ああこの人、すごいモテそうだなあ、なんて勝手なことを考えながらお礼を伝えようと顔を向けた、その瞬間。



「っ、え、一之瀬さん…?!」

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