どうせ好きじゃ、ないくせに。
彼が、私とはほとんど接点のない営業一課の。しかもあの一之瀬さんであったことに吃驚して、そう声を張り上げてしまった。
そのうえ何も飲んでいないのに何かが気管支に侵入したのか、げほげほと咽こむ始末。
「大丈夫?よかったらこれ飲んで。」
そう、水らしき飲み物の入ったコップを差し出してくれる一之瀬さん。
こんなことまでさせてしまっている自分が情けなくて、謝り倒したい気持ちでいっぱいになりがらありがたく流し込む。
一瞬喉の奥が少し熱くなって、ただの水なのに染みるなんて相当勢いよく咽返ってしまったのだと実感した。
……それ以外の可能性なんて、頭の片隅にも用意していなかったから。
「あ、ありがとうござ……げほっ」
「落ち着いて、それ飲んでむせたら元も子もないよ」
呆れもせず、かと言って無関心そうなわけでもなく、まるで当然のことのように一之瀬さんが私を労わってくれるので、彼には申し訳ないが『落ち着いて』なんていられるわけがなかった。
「なんか、忙しい人だね」
「…あ、あはは」
頬杖をつきながら微かに細められる彼の瞳があまりに私を貫くから、離せなくなる前にとっさに逸らす。
…脈が打つたび、まるでそれがポンプにでもなっているかのように、全身に熱い血を巡らせる。これが頭のてっぺんにまで到達してしまったら、一体私はどうなるんだろう。
「…あの、一之瀬さん、なんでここに…」
急に咳をしたせいか身体が火照ってきたけれど、なんとか手で仰いでしのぎながらそう問いかける。
ああ、と質問の意図を汲んでくれたらしい九条さんは、自分のコップに日本酒を注ぎながら言葉をつづけた。