どうせ好きじゃ、ないくせに。
翌朝になって、私はもう、パニックだった。
寝覚め一発目に視界に飛び込んできたのは、全くもって見覚えのない真っ白な天井。
上体を起こしてさらに私は大混乱だ。シックな家具で統一された、モデルームみたいな部屋の中に、自分がいるのだから。
もう、冷や汗さえもでなかったし、言葉なんてもっと発せるわけがなかった。ただただ心臓だけがドクドクいっていて、それしか認識できない。
私はただ、呆然とベッドの上で部屋の中にいるだけだった。
--けれどそんなことは序章にすぎなかったのだ、と気付いた頃にはもうとっくに、私の悪夢が始まっていたのかもしれない。
「あれ、起きたんだ」
ぱす、ぱす、と滑るような足音を鳴らしながら、キッチンらしい一角から現れた、人物。
パーカーにだぼっとしたパンツ姿に、オフホワイトのスリッパ。そんな姿さえもやっぱりキマっていて、さすがだなあと思った。
そんな当たり障りのない情報しか、脳が受け付けなかった。それ以外のことなんて、理解したくなかったのだ。
「きみもコーヒー飲む?その前にシャワー浴びた方がいいかな、結構暑いでしょそのトレーナー。」
マグカップを口元に運びつつ、当然のことのようにそう尋ねてくる彼。……一之瀬、さん。
彼の言葉がやけに引っかかって、自分の上半身を見下ろすと、彼の言う通り、厚手のトレーナーを身に纏っている。
決して、私の物でも、そもそも女ものでもない、トレーナー。
「あの、一之瀬さん」
「ん?」
「昨夜、わたし、その…」
「あー、気にしなくていいよ。間違って酒飲ませちゃった俺も悪いし」
「っ、そうじゃなくて、あのっ…て、え?」