どうせ好きじゃ、ないくせに。
間違って、酒を飲ませた?
彼の言葉がどうにも聞き逃せるものではなくて、私は少し痛む頭をなんとか回転させながら飲み会での出来事を思い出していた。
『大丈夫?よかったらこれ飲んで』
…そういえば、動揺した私に差し出してくれた飲み物。やけに喉が熱くなったのを思い出した。
確かにあのとき一之瀬さんの前には日本酒が置いてあったし、どちらも透明だし、私自身飲み物の香りなんて気付かないぐらい焦っていたから、あり得ない話じゃない。
と、言うことは。彼に介抱させてしまった……?
「……一之瀬さんのこと、ずっと見てたから」
「…え?」
とんでもないことをしでかしてしまったんじゃないかと青ざめる私に、一之瀬さんが訳の分からない言葉を発し始めた。
すっとんきょうな声と共に首を傾げると、むしろ彼の方が不思議そうな表情を見せる。
「昨夜、君が言ったんだよ。覚えてない?」
「っ……!?」
「その様子だと、何も覚えてなさそうだね。」
うそ、うそ、うそだ。
だって、そんな、まさか。
……でも。実際問題、あの瞬間以降の記憶が曖昧なのだ。会話の内容なんてもう微塵も思い出すことができない。
度数の低いチューハイでさえ顔が真っ赤になってしまう私が、日本酒なんて口にしたらもう。どうなるかなんて、自分でさえ想像がつかなかった。
「ねえ、佐岡さん」
コトンとマグカップをサイドテーブルに置く音がして、すぐにベッドが軋んだ。
隣に、彼が膝をついている。
--逃げなきゃ。
瞬時にそう思ったのに、身体が言うことを聞いてくれない。
彼の腕が、すっと私の目の前を通過して、左頬に添えられた。そうしてそのままゆっくりと、彼の方へと向けさせられる。
一直線に重ねられる視線が、溶けてしまいそう。
「知りたい?昨夜、俺たちの間に、何があったのか」