君のカメラ、あたしの指先
「……ふふふ」

「なに?」

 卵焼きをつついていた手を止めてふっと顔をあげれば、そこには口元を抑えて笑う有紗の姿。

 なんか変なこと言った? と尋ねると、彼女は首を横に振ってこう答えた。

「流石あゆちゃん。いくつもの恋愛を見届けてきた先生は言うことが違いますね」

「……全部画面や紙面の向こう側ですけどね」

 自分で突っ込んどいてなんだけど、虚しかった。


「でもね、あゆちゃん」

 突然真剣な顔になった有紗が、あたしの顔をのぞき込む。

「あゆちゃんに好きな人が出来たら……あたしに応援させてね」

「えっ」

 不意打ちの言葉に思わず声が詰まった。でも有紗はふざけてなんていなかった。

 思い詰めるかのような真顔で、約束だよ、と念を押す。

「絶対教えてね」

「ああ、うん……」

「絶対だからね」

「……」

 なぜそんなにこだわるのか、理解できない。
 あたしの顔にそう顔に書いてあったのか、有紗は不服そうに鼻を鳴らした。

「だってさ、あたしばっかり恥ずかしい思いして、不公平じゃん」

「はあ……」

「だからあゆちゃんに好きな人が出来たらあゆちゃんをからかって遊ぶの!」

 そのプラン、言っちゃあかんやつや。
 でもなんでだろう、すごく有紗の目がキラキラしてる。

「それもし、あたしが瀧川を好きになったらどうするの?」

 そう言うと、有紗の顔が真っ青になった。

「そ、その時は、その……えっと」

「冗談だよ。死んでもないから安心しな」


 卵焼きつつきを再開すると、「ばかあ!」という有紗のちっとも怖くない罵声が飛んできた。
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