冷徹部長の愛情表現は甘すぎなんです!
てっきり由佐さんのことを聞かれるかと思っていたので、違っていてとりあえずほっとしていたのだが、それもつかの間で後ろから「おはよう」と声をかけられ、ドキッとする。
振り返ると、由佐さんが立っていた。

「課長、おはようございます!」

谷池さんが元気よく挨拶をしているが、わたしは控えめに小さくお辞儀をしながら返す。
気にしないように、と思っていたが、やはり本人と会うと昨日のキスが頭に浮かんでしまって、目を見ることができない。

それなのに由佐さんは、どうして平然としていられるのだろう。

「声聞こえたぞ。谷池、慌てて書類作ってミスるようなことはするなよ?」

「だ、大丈夫です、嶋本さんと頑張りますから……!」

目配せでわたしに援護を求めてくる谷池さんの姿にうなずいていると、信号が変わった。焦った感じで歩きだした谷池さんに少し遅れて動いたとき、由佐さんが隣に並んだので再び鼓動が大きく鳴りはじめる。

「仲がいいんだな、谷池と」

「……はい?」

谷池さんには聞こえない大きさでぼそっと言った由佐さんに、騒がしい胸の音を感じながら目を向けると、彼はなんだか機嫌が悪そうな顔をしていた。

デスクが隣だからか、谷池さんとは他の課の人たちと比べるとよく話すけれど……由佐さんがどうしてそういう顔をするのか、よくわからない。
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