冷徹部長の愛情表現は甘すぎなんです!
むしろ、徐々に職場に慣れていっているということを、上司として感心してくれてもいいのでは?

本当に、由佐さんってなにを考えているのだろう。
彼の言葉に微妙な気持ちになりながら会社へと向かい、ビルにたどり着いてエントランスへと入ったとき、エレベーターの近くに見たことのある女性が立っていた。

あれ、この人って……三坂さんのお店に来た、香弥さんという人だ。三坂さんが親しそうにしていたし、由佐さんとも目を合わせていたと思う。
スカートとジャケット、そして高いヒールを履いていて仕事のできそうなスーツ姿はとても品がある。このビルに入っている会社で働いている人だったのだろうか。

香弥さんがこちらを見て、たぶん、由佐さんに気がついた顔をした。
やっぱり由佐さんも知り合いなんだ。そう思って彼のほうを窺うと、香弥さんの姿を見て驚いているようだった。

でもそれは由佐さんだけではなく、一歩前にいる谷池さんも目を見開いて振り返り、由佐さんを気にしている。

谷池さんも、香弥さんと知り合いなの……? 一体誰なのかと思っていると、女性がこちらに向かって微笑んだ。

「おはよう、由佐くん。久しぶり……ではないね、この前純くんのお店で見たから」

エントランスを進んでいき、声をかけてきた彼女のそばで立ち止まった由佐さんは笑みを作って軽く頭を下げる。
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