霞村四丁目の郵便屋さん
「うん、グレープ好きだから」


そう言ったけれど、今まで見てきた不思議な光景が、口に運ぼうとする俺の手を止めさせる。

飲んだら人間の血だったとか、飲んだ瞬間呪われるとかいうようなことはないだろうな……。

そんなお伽噺があったかどうかはわからないけど、ふとそんなことを考えてしまった。


「ヤダ。なにも入ってないよ」


みやびは俺の心の中が覗けるのだろうか。
クスクス笑いながらゴクンとジュースを喉に送る。


「瑛太くん家は行かないのかな。隣町のマルヨネ」


マルヨネというのは、食料品を扱っているスーパーだ。
週に何度かお年寄りのために移動販売なんかもしていて、霞村の人たちはほとんどここにお世話になっているといっても過言ではない。


「行くよ」


俺がそう答えると、再びキッチンに行って冷蔵庫を開けたみやびは、グレープジュースのパックを俺に見せる。


「あ、それ家にもあるかも」

「でしょ?」


再びおかしそうに笑う彼女は、学校にいるときよりずっと上機嫌に見える。
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