君が残してくれたもの
斜め後ろに桜樹が座るようになってから、私の背中はいつも緊張していた。

「ねえ、なずな」

そんな私の心とは裏腹に、桜樹はだるそうに机に顔を付けたまま私を呼ぶ。


「え?何?」

振り向いて桜樹の顔を見ると、

「なずなって漢字あるんだね」

辞書片手に、机に顔を付けたまましゃべってる。


なんというか、家なの?ここは…

と、聞いてみたくなる。


なずな、という名前について質問されるのは久しぶりかも。


「うん」

席を立って、桜樹の前に立つ。


「薺は漢字が難しくて書きにくいから。名前はひらがなになった、ってわけよ」


私の話に耳を傾けつつ、桜樹は辞書を見ながら机に薺と書いた。

いびつな字だ。

しかも、油性だ…

どうすんの、これ。

たぶん誰も読めやしないと思うけど…

かなり、恥ずかしい。


本人は全く気にしていない模様。


花の名前で言えば、

「桜樹は桜の樹だもんね。華やかでいいね」

華やか、名前負けしてないのがうらやましいやら憎たらしいやら。

ちょっと嫉妬する私に、

「華やか。うん…でも、桜ってすぐ散っちゃうじゃん」

桜樹は不服そうな顔をする。


桜は散る姿さえ美しいんだけどね。
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