君が残してくれたもの
「今は種まきの時。なずな、今のことばかり見てるけど。時間は今と未来を繋いでるんだから。今、たくさん種を蒔けば未来でたくさん花が咲く。種と種が合わさって、新しい見たことのない花が咲くかもしれないよ?」


桜樹の柔らかい声が静かに私の心に落ちてくる。


「種…」


桜樹は、頷いて、


「種を植えた過去がなかったら、花咲く未来もないよ」


私をまっすぐ見た。


思わず涙ぐみそうになる私の心は、とても乾いていたことに気付かされる。


「何をしたって、無駄にならないよ。だから安心して。今やってることすべてで、なずなは作られていくから。楽しいこと、悲しいこと、苦しいこと、不思議なこと…なんだってなずなを作る要素になるから。ただ楽しいだけのことでも、意味あるんだよ?」


不安だった。

母が、一生懸命働いてくれてるのに、父に傷つけられた心で、華奢な体で私との暮らしを守ってくれているのに。

意味のないことをしている場合じゃないって。

意味のあることをしなくちゃいけないって。

それに、楽しいことはいつか終わる。楽しかった、父と母がいた暮らしも、祖父や祖母と過ごした時間も、終わった。

終わるなら、始めない。

そう思ってしまったから…


「悲しいこと、あったってまた新しい楽しいこと作ればいい。未来は作れるんだから」

もう、ダメだ。

我慢していたのに、涙、湧き水のごとくあふれてくる。


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