死にたがりは恋をする
 {職員室}     

「俺は、大橋くんのことを小野寺くんがイジメそうになっていたので、止めようとしたんです」

 嗚呼、アクトは本当に、いい人だ。僕もこんないい人ぶらないいい人に、生まれてくれば良かったのに。

「そうなのか?小野寺?」

 先生は餓鬼大将の目を見ながら話す。餓鬼大将の心までも見抜いているような、鋭い目つきで。

 餓鬼大将の本名は、小野寺雨矢(おのでらあめや)という。雨矢は昔からこういうことが多かったらしい。

「ッ!__はい、そう、です」

 雨矢はアクトと僕の方を睨んで、そしてぶつぶつと言った。

「大橋、怪我は無いんだな?」

「はい、大丈夫です」

 実際は、心が大怪我して意識不明の重体なんだが、そんな変なこと言ったって、変な人みたいな扱いをされるだけだ。

 __僕の母親のように。

 先生はハァとため息をついた。ため息をつきたいのはこちらの方だ。

「雨矢、お前は一週間謹慎だ」

 嬉しいような、哀しいような。哀れだね、雨矢。僕は、勝ったんだ。

「死にたがり、死んじまえ!!!」

 雨矢はそういうとドアを乱暴に開けて逃げるように差って行った。

 雨矢は、泣いていた。嫌な予感がした。

 __馬鹿だな、僕。あんなことされてまだ心配してるんだ。

 __そうだね、僕は馬鹿だよ。

「先生、僕、熱っぽいので早退します」


 
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