あまりさんののっぴきならない事情
 



「今日は支社長のパンはどうしましょう?」

 パンを買いに来た寺坂にあまりはそう訊いた。

「ああ、どうでしょうね、今日は。
 一応いただいときましょうか。

 外回りのついでに大崎さんとこに寄るかもとか言ってらっしゃったんで、もしかしたら、食べてこられるかもしれませんが」

「……大崎さんとこ?」
と普通に訊き返したつもりだった。

 だが、寺坂は何故か、ビクリと怯えた顔をする。

「あ、あまりさんはご存知でしたっけね、大崎さん。
 今日、寄ってくるって言ってましたよ」

 なんで怒ってるんだろう、という顔をしたあとで、寺坂は、なおもそんなことを言ってくる。

 へー、と冷ややかに見ていると、
「あっ、じゃあ、それではっ」
と寺坂はそそくさと去って行ってしまった。

 へー。

 外回りの帰りにわざわざ大崎さんの店に。

 いや……店とは言わなかったな。

 自宅とか? と渋い顔をしていると、
「あまり」
と声がした。
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