あまりさんののっぴきならない事情
 はい、と言う桜田に、秋月は、
「えー、なにそれ。
 キスのひとつもしたんじゃないのー?」
と室長が居るのに大きな声で訊いている。

 いつものことなのか、ご隠居は聞かぬふりだ。

「いえ、そんな。
 だって、寺坂さんですから」
と恥ずかしそうに桜田が言う。

 ……いい人だな、寺坂さん。

 あの悪魔とは大違いだ、と思いながら聞いていた。

「あまりはどうだったの?」
と唐突に、秋月に話を振られて、ビクつく。

「あ、えーと。
 海里さ……支社長の昔のお知り合いとお会いしたりして、その、帰りました」
と曖昧に答えると、

「なにそれ。
 食事くらいしてきたんでしょ?」
と訊いてくる。

「ああ、はい。
 それはまあ」

「へー、支社長って、どんなとこに連れてってくれるの?」

「なんかすごい店ですかね、やっぱり」
と興味津々、桜田が言ってくる。
< 238 / 399 >

この作品をシェア

pagetop