あまりさんののっぴきならない事情
 ほんとにちょっとだけ、と思いながら腰を浮かせたとき、いきなり、ロッカーの方から、スマホの鳴る音が聞こえてきた。

「あれっ? 私のかな?」
とあまりが言い、目を開ける。

「あ、ああ、そうかもねっ」
と慌てて言い、IHを切りに立ち上がったフリをした。

「すみません。
 マナーモードにしてなかったです」
とあまりはロッカーに取って返す。

 ……ああ、危ないところだった、と思う。

 あんまり可愛かったから、理性が吹き飛びそうになった。

 なんだか、今日は特別可愛い気がするんだが。

 この間まで感じなかった色気のようなものをうっすら感じるし。

 まさか海里となにかあったんじゃないだろうな……。

 そんなことを考えていると、ロッカーの方から、微かに話し声が聞こえてきた。

 だが、すぐにあまりは出てくる。

 偉く早く切ったな、と思い見ると、あまりは、なんだか、しょんぼりしていた。

 ど、どうした、あまりっ!?
と思っていると、あまりは、

「……おにいちゃんからでした」
とこの世の終わりのような声で言う。

「なにか良くない電話か?」
とその様子に訊くと、

「いえ、台湾の土産はなにがいい? とかいう、しょうもない電話でした」
と答えてくる。
< 245 / 399 >

この作品をシェア

pagetop