あまりさんののっぴきならない事情
 あっ、いえっ、とあまりは照れたように言い、去ろうとした。

 その手首をつかみ、引き寄せると、軽くその唇に触れる。

 が、あまりは吹っ飛んでく勢いで逃げていった。

「ありがとう、あまり」
と言うと、あまりは真っ赤になったまま、よくわからない風な顔をしていたが、すぐに、ああ、という顔をする。

 自分がイギリスに居たから、感謝を込めてそんなことをしてきたと思ったようだった。

 いや……イギリスでも、口にはしないから、と思ったが、言わなかった。

「は、はい。
 ではっ。

 どうも失礼致しますっ」
とあまりは、ぎくしゃくとした動きで、奥へと引っ込んでいく。

 今の言葉は嬉しかったけど……。

 やっぱり、海里の方がいいわけね、と思いながら、寂しく見送った。







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