あまりさんののっぴきならない事情
 




「いや、払う」

 安芸と海里はまだ押し問答を続けていた。

「でも、あのあと、大変だったんでしょう?
 早川さんに聞きました」
とお金を押し返しながら、安芸は海里に言ってくる。

 早川というのは、あのとき自分たちを拾ってくれた宿の運転手のようだった。

「そうだ。
 そんなことはいいから、ちょっと」
と海里は安芸の肩を抱き、背を屈め、小声で訊いた。

「ちょっと訊いてみるんだが。
 その……どうやって奥さんにプロポーズした?」

 ええーっ、と驚いた顔をした安芸だったが、あまりを振り返ったあとで、なるほど、という顔をする。

「そうですね。
 うちの場合は、親も年だし、そろそろ結婚しようかって。

 あの、僕ら末っ子同士なので」
と照れたように笑っていた。

「……そんなに普通でいいのか」

「そんなに普通でいいんですよ」

 考え過ぎですよ、犬塚さん、と言われてしまう。
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