イノセントダーティー
グラスにそっと口つけて、アオイさんはニコッと笑った。
「大学、楽しい?」
「急に話変わりましたね」
「料理がまずくなるかなって。変な話してごめんね。せっかく会えたし、マサのこと教えてほしいな」
「と言われても、見ての通り平凡な大学生ですよ」
「平凡ってのはどうかなー? マサはモテると思うよ。彼女がいないなんて信じられなかった」
「それを言ったらアオイさんじゃないですか? 旦那さんいるように見えなかったし」
「そういうのはいいからー」
「お世辞とかじゃなくホントですって! 可愛いし話しやすいし」
しまった。つい言ってしまった。まあ、どうせ軽く流されるんだろうけど……。
アオイさんはふうとため息をつき、苦笑いを浮かべた。
「ありがとう。さっき私があんな話したから慰めてくれてるんだよね」
「別にそういうわけじゃ」
「そういうことにしておいて?」
「アオイさん……」
「じゃないと……。今好きになってもらっても、マサの気持ちに応えることはできないから」
本人の口から決定的なことを言われると、想像以上にきつかった。
「それに……。今私、本当に色々悩んでるから。そういう時に優しくされたら、ダメって分かっててもマサに寄り掛りたくなっちゃうから。そんなのマサもつらいだけだから。そんなのはいけない。分かってくれるよね?」