ドメスティック・ラブ

 いやいや。いやいやいや。
 確かに今日は土曜で明日も休みだけど、もうとっくに温泉街出て高速乗ってるし。あと一時間ちょっとで家まで着くし。
 いくら長年仲が良くても、これまでに一緒にお風呂なんて入った事ない。当然結婚してからだってそんな機会は一度もなかった。だって私達は夫婦なのにプラトニックというよく分からない関係を続けてる訳で。
 今更まっちゃんがどういう意図でこんな事を言い出したのか分からなくて、ノリツッコミで返せばいいのか笑い飛ばせばいいのか、はたまた照れてみせるのが正解なのか分からない。最近たまに投げてくる冗談の延長なんだろうか。以前のまっちゃんはこういうからかい方なんてしなかったのに。
 それに……。

「とりあえず夕飯にしよう。もう少ししたら混むだろうし、風呂入って腹減っただろ」

 そう言いながら、まっちゃんがバックミラーを見て車線を左に寄せた。すぐそこにサービスエリアへの入口がある。
 分岐路の先はお土産物屋にフードコート、それとは別にレストランも併設された大きなサービスエリアだった。既に結構な数の車が駐車場に停めてある。

「フードコート大分並んでるな……レストランで食べるか」

 車を降りると、陽が落ちた上に山間のせいか風が少し冷たい。
 店内では券売機の前に行列が出来ていて、満席だ。テーブルを確保しようとさまよっている人も多い。逆にレストランはウェイティングもなく、すぐに入れそうだった。

「千晶?」

 急激に口数が少なくなった私をまっちゃんが振り返る。

「サービスエリアじゃなくて別の所が良かった?でも高速降りてからだと結構遅くなるしなあ」

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