ドメスティック・ラブ
口を開こうと顔を上げた時、まっちゃんの目が私じゃなくてフロントガラスの向こうを見ているのに気づいた。
その視線の先を追って行くと、ゴミ箱が設置されたサービスエリアの片隅でライダー同士が何か言い争っている。取り巻く仲間らしき若者の集団と、遠巻きに顔を顰めながら眺めている他の利用客。トラブルでもあったんだろうか。
不穏な空気だなと思っていたら、言い争っていた二人の内、片方がもう一方の胸ぐらを掴み上げた。そのまま殴られそうに見えて思わず首を竦めた瞬間、運転席のドアが開いた。
「中村っ……」
まっちゃんが物凄いスピードで車の外に飛び出して行く。そのまま喧嘩をしている二人の方へ一目散に走って行くまっちゃんがガラス越しに見えた。
「ちょ、まっちゃん?」
焦っていたためか運転席のドアは半ドアになっていて、ルームランプが消えなかった。私はドアを閉め直してキーを取ると慌てて自分も車の外に出た。
どういう事情か、なんて聞かなくても何となく察しはつく。多分、あのライダーのどちらかがまっちゃんの生徒だ。
私立の進学校で割と落ち着いた校風だけれど、たまにその枠の中に収まり切れず問題を起こしては手を焼かせる生徒が常時何人かはいると以前から言っていた。まっちゃんは具体的な名前を出して愚痴ったりはしていなかったけれど、中村という名には聞き覚えがある。雨の日のデートの帰り、かかってきた電話に呼び出されて出て行った時にそんな名前を口にしていた気がする。
土曜の夕食時で人の多い時間帯のサービスエリアという事もあって、少し離れた所の野次馬が少しずつ増えている。周りに停めている車の中でも、前方のトラブルを興味津々といった様子で眺めているドライバーが何人もいた。私も車からは出て来たものの、彼らとは無関係なのに騒ぎの中心まで走って行くわけにも行かず、結局少し手前で足が止まってしまった。