ドメスティック・ラブ

「いやまさかそう来るとは……ってて」

「一番大事でしょ？旦那に好きだとも言われてない内に未亡人とか嫌じゃん！」

　自然と唇に力が入ってへの字口になる私を見て、さらにまっちゃんが身を捩った。打撲した部分が痛いのか、笑いながらも時折身体のあちこちを押さえている。
　こっちは大真面目に言ってるのに何故笑う。

「死なないって」

「だから万一って言ってるんだってば。そこのとこちゃんと聞いとかないと私だってこれ以上踏み込めないの」

「それはお互い様」

　肩で息をしながらようやく笑いをおさめたまっちゃんが、少しだけ真顔に戻ってこちらを見た。

「千晶は別に俺の事が好きで結婚した訳じゃないだろ」

「それは……」

　確かにプロポーズめいた事をされたあの日帰り旅行の時点で、私はまっちゃんに恋愛感情を持っていた訳じゃない。それは事実だ。
　友情としての好意と恋愛としての好意との境目はとても曖昧で、いつ恋愛側に傾いたのかなんて私自身にもはっきりとは分からない。
　ただ今回の事を含めてあの日から数ヶ月夫婦として過ごした色々があって、今はあの時とは違うと自覚してる。間違いなく、私はそのラインを越えた。

「……だから相手の気持ちも確認せずに手を出す訳にはいかんでしょう」