ドメスティック・ラブ

「あの時の酔っ払った千晶を見てて……これは前からだけど、千晶の世話焼くのは苦痛にならないっつーか、この先面倒見る役目を誰か別のやつに譲るのは嫌だと思ったんだよ」

 世話焼きなのは性分で、誰にだって優しい人だと思ってた。だから、自分がその中で特別になってたなんて知らなかった。
 そろそろと両手を下ろして顔を上げると、こちらを見るまっちゃんと目が合った。しょうがないなあって、笑いながら私の手をいつも引いてくれた優しい目。そこにある安心感も包容力も変わらなくて、だけどその中に以前はなかった甘さが混ざる。
 白い掛け布団の上に置いた私の手に、まっちゃんの手が重ねられた。

「ちゃんと、千晶の事が好きだ。だから、俺と結婚して下さい」

 何にも捻ってないストレート。
 消毒液の様な独特の匂いが漂う病室で、目の前のまっちゃんは包帯だらけの痛々しい姿で、私は疲れ切ってヨレヨレだしきっとメイクだって落ちている。シチュエーション的にロマンチックさはかけらもない。
 でもその一言を、待ってた。
 鼻の奥がツンと痛くなって、じわりと瞼が熱を持つのが分かる。

「……もう結婚してるのに、今更プロポーズ?」

 意固地な私は素直になれずに、返事をするより先に照れ隠しでそんな科白を口にしてしまう。

「そう言えばちゃんと言ってなかったなあって。好きだって言われてないって気にするくらいだから、そこもちゃんとはっきりさせておこうと思って」

 うん。まあ間違ってない。贅沢な私は好きだと言われた次にはきっとそれも求めてしまう。さすがまっちゃんは私の事をよく分かってる。

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