ドメスティック・ラブ

 私はゆっくりとまっちゃんの手の下から自分の手を抜き取って、もう一度まっちゃんの手の上に重ね直す。

「覚悟なんてとっくに出来てる」

 『覚悟』の意味が伝わったのか、少しだけまっちゃんが驚いた顔をした。
 死ぬ程恥ずかしい。照れ臭い。いっそ笑って茶化して誤魔化してしまいたい。でもまっちゃんに先に言わせた以上、これは今言わなきゃいけない事だと思うから。

「私もまっちゃんの事、好きだよ。これからも末永くよろしくお願いします」

 最後に頭を下げたのは決して顔を合わせているのが恥ずかしかったからじゃない……多分。

「……こちらこそ」

 まっちゃんが俯いた私の髪に軽く触れる。この前も思ったけど、まっちゃんに撫でられると妙に安心する。いつの間にかまっちゃんのそばが一番居心地が良いことを刷り込まれてしまっている。
 ほんの少しの間の後、顔を見合わせて私達はお互いに吹き出した。

「ホント今更なにやってんだろうな、俺達」

「こんなに直球な告白したの、高校生以来だよ……」

 まさか三十越えてこんなに気恥ずかしい告白する事になるなんて思ってもみなかった。大人になるにつれて恋愛の始まりは少しずつ曖昧になっていって、好きだとはっきり言葉で伝える事なんて殆どなくなっていた。
 友人達に知られたら呆れられそうだ。まあさとみん以外の皆は私達が勢いで結婚したなんて知らない訳だし。皆の認識に私達の自覚がようやく追いついたとも言えるんだけど。

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