ドメスティック・ラブ

「あー、早く家帰りたい。折角風呂入ったのに何か埃っぽいし」

 背中をベッドに預けてまっちゃんが天を仰ぐ。
 そう言えば温泉入って肌がツルツルだとか言ってたはずなのに、私も冷や汗やら埃やらでそんな感覚は吹っ飛んでしまった。

「明日には帰れるよ。でも今お風呂入ったらあちこち滲みて痛いと思う。てか頭の傷が塞がるまで湯船に浸かるのダメでしょ」

「だよなあ……」

 自分の身体に出来たあちこちの擦り傷を眺めてまっちゃんはため息をついた。

「私は今から帰ってシャワー浴びるけどね」

 そう言いながら立ち上がる。
 時間的にもう電車は無理だし、タクシーを呼ばなくちゃいけない。わけもわからないまま連れて来られた病院だったけれど、帰宅途中だった事が幸いして自宅までの距離はタクシーを使えるギリギリの許容範囲だ。もっと遠かったら宿を取るか病院に泊めてもらうしかなかったはずだった。
 結局車は事情を話してサービスエリアに停めたままになっている。私は運転出来ないのでまっちゃんが退院したら取りに行かないといけない。

「いいなあ。あー俺も帰りたい」

「明日は休み取ったし、迎えに来るね。どうせ仕事は休まなきゃいけないんだから、いい機会だしたまにはゆっくり寝なよ。昨日も遅かったでしょ?」

「……いつもと立場が逆な感じで新鮮だな」

 まっちゃんがくすりと笑う。
 確かにいつもなら色々と注意を口にしつつ世話を焼くのはまっちゃんの方だ。

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