ドメスティック・ラブ

「寂しいから行かないでー!」

「いや行くけど」

 呆気に取られた様子で我儘な事を主張する私とニヤニヤ笑いながらそれを見ているまっちゃんを見比べていたさとみんは、あっさりと私の身勝手さを一刀両断する。

「しまっちが酔っぱらい過ぎてる……ってわけじゃないよな。どうしたんだよ、これ」

「いや、さとみんに本音ではずっとこう言いたかったらしいんだけど我慢してるせいで、ずっとらしくなくウジウジ根暗になってるからさ。いいチャンスだから発散させとこうと思って」

 まっちゃんがよっしーに説明している声がする。
 酷い言われようだけどまあ間違ってない。

「あのねえ、大体私より先にあっさり嫁に行ったくせに何言ってんの」

 そう言いながら手渡されたおしぼりで目の下を拭くと、マスカラだかアイラインだかの黒い汚れがついた。中途半端なその状態が余程酷かったのか、さとみんはおしぼりを取り返すと両目の下や目尻と頬を拭ってくれる。

「嫁には行ったけど普通に会えてるじゃん!ただでさえ皆と会う機会段々減ってきてすっごい寂しいのに、さとみんが海外なんて行っちゃったら……」

 それ以上言うとまた高ぶって涙が出そうだったので、私はぐっと唇を噛む。

「……まあそりゃ十年前と比べりゃあなー。家庭があるやつも遠方で働いてるやつもいるし。仕事だって新人の頃程暇じゃなくなってるから、休日は遊ぶより休息を優先したくなる時もあるし?そういう事に気づくと歳取ったんだなあなんて自覚して切なくなるよな。でもたまにでもこうやって騒ぐと楽しいしすっきりするし、いくつになってもこの感覚が人生には必要だなって思うよ」

 私の言いたい事を察したらしいよっしーがテーブルに頬杖をついて苦笑いしながら言う。

< 132 / 160 >

この作品をシェア

pagetop