ドメスティック・ラブ

 おまけに寝室に入ったら既にベッドは移動されていた。朝は変わっていなかったのだから、多分帰宅してからお風呂に入る前にまっちゃんが動かしたのだと思う。想定外の事態に加えて、ドッキングされた事で広々としたベッドを眺めていると、落ち着くどころか出来ていたはずの覚悟さえどこかにすっ飛んで行ってしまいそうになる。

 けれど内心あたふたしている私をよそに、まっちゃんは全くのいつも通りだった。ベッドなんて元々その配置だったかの様に触れさえしない。
 夕飯だって何も特別な事はない。ミートソースは確かに見た目は不揃い過ぎる野菜に手作り感が溢れていたけれど、茹でたスパゲッティにかけて粉チーズを振ると意外と悪くなくて、まっちゃんにも美味いよと褒められた。ネットを検索すればすぐに出てくる「初心者にも簡単なレシピ」というのは本当にありがたい。生野菜にドレッシングをかけただけのサラダにはもちろん外れはないし、まっちゃんが作っておいてくれたベーコンとキャベツの入ったコンソメスープも美味しかった。折角だからと二人でワインを一杯ずつ飲み、美味しかったので二杯目に手を出そうとすると止められた。これは私がお酒、特にワインには弱いのでまあ当然と言える。

 そして食事の後、片付けとくからお風呂入ればと言われたのも自然な流れだった。
 食事を朝のうちに用意してたのは私だから家事の分担としてはおかしくない。まっちゃんお風呂終わってるしね。
 変に意識せず、普段通りでいようと思ったのでメイクも落としたし、パジャマだっていつものTシャツとスウェットのショートパンツ。下着が新しいのはたまたま下ろすタイミングだっただけだし、湯船でうっかりのぼせそうになったのは折角片付けを免除されたのでゆっくり浸かり過ぎていたせいだ。髪を丁寧に乾かしたのも身体の火照りを冷まそうと思ったから。
 結構な時間をかけたせいか、リビングに既にまっちゃんの姿はなかった。綺麗に片付けられたキッチンで炭酸水だけ飲んで、寝室に向かう。
 ベッドに座って足を投げ出し本を読んでいたまっちゃんは、ようやくやって来た私を見て「長風呂」と笑った。

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