ドメスティック・ラブ
「……片付けありがと」
とりあえずベッドの端に腰掛けてみる。座ってみると余計に広さを実感する。
「どういたしまして。いつも俺の方が遅いんだから早い日くらいはやるよ。千晶こそ、風呂掃除したんだろ?」
あ、バレてる。
別に時間稼ぎとかそんなつもりはなく、まっちゃんは既にお風呂終わってるしどうせお湯抜くんだからついでに掃除も終わらせておこうと思っただけだ。
「ちゃんと髪も乾いてるな、よしよし。濡れてると俺みたいに風邪引くぞ」
本を置いたまっちゃんが私の髪に触れる。
手が伸びて来る瞬間、条件反射で思わず身をすくめてしまった。どうしよう、実は結構緊張してるのかもしれない。
「千晶、びびり過ぎ……」
そんな私の様子を見てまっちゃんがくつくつと笑う。
内心の焦りを見透かされていると思うと照れ臭さで一気に顔が熱くなった。
「覚悟なんてとっくに出来てるとか言ってたのは誰だったかなー」
「しょうがないじゃん、帰って来たらいきなりベッドはこうなってるし!準備万端、みたいにされたらこっちだってどういう顔したらいいのかわかんないの!」
「結構な時間的猶予はあったはずだけどな。今どき高校生でもこんなに行儀良く待たないだろ」
「その発言は高校教師として問題があるよ、まっちゃん……」
まあ結婚してから三ヶ月、結婚しようと言われたあの夜からだと半年。なんだかんだ退院した日からも一週間近くあった訳で。この歳で結婚した男女が何もなかったなんて事情を知ってるさとみん以外は絶対に信じないだろう。機が熟してなかったというか私に結婚した自覚が今ひとつ薄かったというか、なのでその辺り最大限配慮してもらってはいたんだと思う。