ドメスティック・ラブ

「いい機会だから挑戦してみようか。ほら呼んでみ」

「え、今?!」

「そう、今」

 待って待って待って。この距離で正面から顔つき合わせて、呼んだ事もないのに名前で呼ばされるってどんな羞恥プレイ!

「だから善処はするってば!今すぐじゃなくても……」

「そんな事言って努力するどころか千晶完全に忘れてただろ」

 う。バレてる。
 当然か。だってあれ以来、呼んでみようとした試しすらない。
 呼び名を変えるって中々にハードル高い。彼の愛称が名前由来のものならともかく苗字由来なものだから、余計に名前だと違和感が強いし。

「今更俺の名前知らないとか言わないよな?」

「そんな訳ないでしょ!知ってるよ」

「じゃあほらどうぞ」

 私を抱え込んだ腕を離さないまま、まっちゃんがじっと私を見つめてくる。今更誤魔化せそうにはなかった。

「り……」

 目を合わせる事が出来ない。身体の内側からどんどん顔に血が昇っているのが分かる。

「……りょう、すけ……」

 堂々と言い切る事は出来なくて、私の声はこのたった数文字の間で右肩下がりに小さくなった。完全なディクレッシェンド。
 それでもまっちゃんは満足そうな声で私の髪を撫でた。

「よく出来ました」

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