ドメスティック・ラブ
顔を上げられないままの私の耳に手がかかった、と感じた次の瞬間に唇に彼のそれが触れていた。
以前車の中でされた時はほんの一瞬触れただけだった。あの時とは違う熱をもった唇が、私の未だに全開に出来ないでいる最後の扉を開きに来る。
車での初めてのキスから二回目までは結構な時間がかかったけれど、二回目から三回目なんてほんの一秒の間すらなかった。回数を重ねる毎に頭の中が霞がかかった様にふわふわして来て、五回目以降はカウントする事すら放棄する。
唇の隙間で息が上がる。少しずつ身体の芯が形をなくす。服の上から身体の輪郭を確かめる様に肩を腰を撫でられるのも、不快じゃなくむしろ心地良い。
……はずだった。
「……待って、ストップ。ごめん、やっぱこっ恥ずかしい。無ー理ー!!」
覚悟は決めたはずだったのに、パジャマにしているTシャツの裾から入ってきた手が素肌に触れた感覚が、流されかけていた意識を急速に現実に引き戻した。我に返ってこの雰囲気に耐えられなくなった私は腕をクロスさせて顔をガードしながら思わず脚をジタバタさせる。
別に初めてじゃないし、過去付き合った相手ともそれぞれ最初の時は嬉し恥ずかしだった。だけどそういうのとも少し違う。相手がまっちゃんだと思うと照れと緊張感が倍増する。これまでの十数年のあれこれを思い出して、目の前の現実とのギャップについていけない。
いい歳して何勿体ぶってんだってのは自分でも分かってるけどでも、恥ずかしいものは恥ずかしい。