ドメスティック・ラブ
「……千晶」
短く吐いた息の間に、私を呼ぶ声が少し掠れている。
「もっかい名前、呼んで」
耳元で囁かれて、痺れる様な感覚が腰の辺りから背中を駆け上がった。
「……っ、ほら」
肘で体重を支えつつ密着していた身体を少し離して、まっちゃんが上から私を見下ろしてくる。空気にさらされた身体の前面が少しだけ冷えて、もうまっちゃんの体温が恋しくなる。
別に泣きたい訳じゃないんだけど、何故かとめどなく出てくる涙と汗で多分私の顔はぐちゃぐちゃのはずだ。お風呂で化粧を落としてて良かった。
「……涼介」
唇が目尻の涙を掬い、頬を伝って唇に降りてくる。
「涼介。好き」
首の後ろ、襟足の髪に指を通すと、慣れ親しんだ洋梨のシャンプーの香りがした。引き寄せて再び密着した身体の熱が、肌を溶かしてるんじゃないかと思うくらい心地よい。
「……俺も」
顔は見えなかったけれど、彼が笑った気配がした。
この人が、好きだ。
最初から大切だった。間違いなくかけがえのないものだった。失う事がとてもとても怖かった。
恋とは紙一重で、でも恋じゃなかったはずなのに。
それがいつの間に、こんなに愛しく思えるようになっていたんだろう。
* * *