ドメスティック・ラブ

「後でさとみん来るって言ってるのに、ここでちゃんと連れて行かなかったら俺が千晶に締められますって……そもそも同じ家に帰るのに何で今二人で消える必要あるんすか」

「それもそうだな」

 先輩はあっさりと納得して頷いた。

「丁度いい、しまちゃん自分の結婚祝いの時も潰れてただろ。さとみんと合わせてしっかり祝い直してやるからちゃんと酔い覚ましてから来いよー」

 先輩はそう言うと、よっしーの代理として皆を先導して三次会の会場へ向かって行った。
 色んな人に「大丈夫?」なんて声をかけられたけれど、皆涼介がいるせいか結局あっさりとその場を任せて立ち去ってしまう。ざわざわとしていた喧騒が少しずつ遠ざかって、ガードレールの向こうを走る車の音ばかりが聞こえ出す。

「だってよ。もう寝たふりは通用しないぞ」

 しばらくしてからポツリと彼が言った。

「……寝たふりじゃないし」

 自分の結婚祝いの時だって寝たふりじゃなかった。実際どうやって連れて帰ってもらったのかは記憶にないんだからあれはフェイクじゃない。潰れてもいいやと思いながら飲んでた事は否定しないけど。
 水を飲んでじっとしていたのが良かったのか、少しずつ酔いは覚め始めていた。さっきまでのように頭が重いという感覚がなくなり、浅かった呼吸が元に戻っている。

「はいはい、人前でいちゃつくのが苦手なだけなんだよな、千晶は。今のこの状態は平気なくせに」

 だってさっき先輩も言ってたけど、酔っ払っている所を介抱される図なんて昔から変わらないから。だけど人前でキスするとかそういうのは全く意味が違う。冷静になるとさっきの一連のあれも恥ずかしくなってきた。

「まあ十年以上付き合いがあっても、見た事なかった顔ってやっぱりあるし。逆にそういう所晒すのに抵抗があるのは分かる気はする」

 自意識過剰なのは分かってる。私が人一倍照れ屋なだけだというのもちゃんと自覚してる。でもやっぱり「女の顔」を皆の前で見せるのには抵抗がある。

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