失礼男の攻略法
「ほお、それはよかった」
目を細める所長は、この私の答えに満足そうだ。とりあえず微笑み返しながら、はぐらかせないだろうかと思惑を巡らせていると
「実はね、直樹にはまだ話してないんだが、今回の案件を機に、あの企業、直樹に引き継ごうと思ってるんだよ」
びっくりすることを告げられた。
今、直樹さんが関わっているのは、所長の、というよりこの事務所全体の中で最も大きなクライアント。そこを引き継ぐってことは、実質的な引退に近い意味合いなんじゃないか。
「所長、ご引退考えられてるんですか?」驚きを隠せぬまま問いかけると
「もう70過ぎてるからね。直樹はもうちょっと向こうで、と思ってるから、何かきっかけがないとな、と思ってね」
悪そうな笑みを浮かべている。さすがは敏腕弁護士。直樹さんに事務所を引き継ぐまでの綿密な計画が練られていて、すでに半分ぐらいまでは実行されている、というところか。
純粋に感心していると
「だからね、お嫁さんにしたい子がこっちにいる、っていうのもきっかけの1つになってくれたらと思ってるんですよ」
今度は朗らかに笑っていらっしゃる。