10年愛してくれた君へ【続編】※おまけ更新中
駅員の男性を山下さんのところまで連れて行った。山下さんは相変わらずおじさんの腕を力強く締めていて、その顔は険しさに満ちている。
「何かありましたか?」
駅員の男性は山下さんとおじさんの状況を目にした途端急に慌てだし、山下さんを落ち着かせるように声を出した。
「盗撮だよ。警察に連絡してくれ」
「お、俺は何もしとらんぞ!!」
「この目で見たんだよ。早く警察呼んでくれ」
山下さんの迫力に負けた駅員の男性は『かしこまりました!!』とそれに従い去って行った。
「おっさん、その携帯よこせよ」
無理やりその手から携帯を奪った山下さん。
「パスワードは?」
「…」
「言えよ。冤罪なんて言わせねーぞ?」
おじさんは大人しく4桁の数字を口にした。慣れた手つきで入力し操作を始める。
私はその様子を少し距離を置いた場所から見ていた。だんだんと山下さんの表情が険しくなっていくのがわかる。
その顔で、本当に自分が盗撮されていたのだと悟った。
「…ありえねぇ。こんなに撮ってたのかよ」
「っ!!!」
改札を出入りする人たちは好奇の目で見てくる。だけど誰もが素通りだ。
「あんた、これからバイトか?」
視線は私の方へと向けられた。相変わらずの鋭い目つきでピクリと肩が動いたが、肯定の意味で大きく頷く。
「一応警察来るまで待ってろよ。バイト先に連絡しとけ」
「あ、でも私大丈夫なので、もうすぐ時間だし…」
そう言うと山下さんは声を荒げた。
「大丈夫じゃねぇだろ!お前自分が何されたかわかってんのか!?犯罪者を許す気なのかよ」
響き渡る怒鳴り声。その言葉に何も返すことができなかった。
「とりあえず、バイト先に連絡して、ここにいろ」
落ち着きを取り戻した山下さん。少し穏やかになったその声色に安心した。
「わかりました…」
携帯を取り出し、すぐそこのバイト先に電話を入れる。盗撮に遭ったなんて言えず、ちょっとした事件に巻き込まれたとだけ伝えた。
あの性格の店長だから物凄く心配してきて。店長にはちゃんと顔を合わせて本当のことを伝えようと思った。