干物ハニーと冷酷ダーリン
『財布忘れたの?まったく川本は慌てん坊さんなんだからー』
と、黒崎さんはあたしの手のひらに5000円札を乗せてくれた。
「いえ、財布はあるんです。中身が伴ってないだけで」
そう、財布はある。あるけど普段からそんなに出費する事もないので、ATMで下ろす機会をことごとく逃し、無くなってから気づく事が多々あるのだ。
まさに今日がその日だった。
「すみません。明日のお昼には返しますね」
『飯くらい俺奢るから返さなくていいよ。その代わり俺の分もお願い』
「いえ、黒崎さんには借りを作りたくないのでちゃんと返します」
『えっ、何それ。そんな寂しい事言わないでよー。俺と川本の仲じゃん』
「どんな仲か知りませんが、ちゃんと黒崎さんの分も買ってきますよ」
ポケットにスマホを入れ、5000円を握りしめデスクから離れる。
「あぁ、水城さんの分も買ってきますよ?」
水城さんは、忙しなく動いていた手を止めて、ちらっとあたしを見ると、何かを考える素振りを見せたと思ったらおもむろに立ち上がった。
『俺も行く』
「あたし、買ってきますよ?」
『煙草買いてぇから』
そう言う水城さんは、スタスタと歩き出しあたしはその後を慌てて追った。