副社長は束縛ダーリン
泉さんはそれだけ言うと、止めていた足を動かして彼女のデスクへ。
私も仕事をしなければと立ち上がり、一番奥の調理台へと移動する。
そこでは三十三歳独身の林さんが、五種類のパン粉をトレーに入れて、並べている最中だった。
彼の近くで足を止め、後ろから話しかける。
「林さん、手伝わせてください。パン粉一種類につき、タネふたつずつでいいですか?」
タネと言うのは、潰したジャガイモに具材と調味料を加えて、コロッケの形に成形したもの。
林さんは自分のレシピに、どのパン粉が適当なのかを、試作して確かめようとしているのだ。
私の仕事の六割は、こうした先輩たちの補助。
手伝いながら学んで、それを自分のレシピに生かしたい。
そう思って、いつも通りに手伝いを申し出たのに、なぜか林さんは肩をビクつかせ、私ではなくドアの方に振り向いた。
つられて振り向くも、悠馬さんが出ていった後に出入りする者はなく、ドアは閉じたまま。
「どうしたんですか?」
「副社長がいたらヤバイと思っーー」
「え?」
「いや、なんでもない。
朱梨ちゃん、手伝って」