副社長は束縛ダーリン

二階の南西に位置する、この開発室の窓から見えるのは、同じような灰青色の外壁をした、ふたつのビル。

そのふたつのビルの隙間に見える小っぽけな空が、橙に色づいている。

時刻は十七時四十五分。終業の時間だ。


開発部員が残業するのは、商品化会議前や、チームで毎年ひとつ取り組んでいる、食品に関する研究を論文にまとめて、発表する前くらい。

今年度は、介護食としてのコロッケの可能性について研究することが決まっているが、それはまだ大枠の段階で、忙しくなる気配もなく、私を含めた二班の全員が帰り支度を始めていた。


自分のデスクの上をザッと片付けてから、割烹着を脱いで畳み、大きめのショルダーバッグに入れる。

それから立ち上がるのではなく、椅子に座り直した私は、バッグからスマホを取り出した。


LINEメールで悠馬さんに宛てて【これから退社します】と送信する。

既読マークがすぐに出ないのは分かっている。

彼は忙しい人だから。


それでもこうしてメールをするのは彼との約束事で、副社長に就任して間もないときに、こんな会話をしたことが切っ掛けだった。

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