副社長は束縛ダーリン
同意をもらえたので、駅へと向けていた足を逆方向へ。
すると……。
「あれ?」
「朱梨ちゃん、どうしたの?」
「今そこに、あのおじいさんの着物が……」
洋食屋の二軒隣の民家の横に、車は通行できない細い路地があり、その曲がり角に、おじいさんの羽織の袖がチラリと見えた気がしたのだ。
隠れてこっちを覗き見ていたのではないかと、その路地までの十歩ほどの距離を走るも、そこにおじいさんの姿はない。
路地はひと気がなく、洗濯物が軒端に揺れる、生活感のある住宅地の光景が広がっているだけだった。
追いついた長谷部くんが、一緒に路地を覗いて私に聞く。
「さっきのおじいさんがいたの?」
「そんな気がしたんだけど、気のせいかな。
杖をついたお年寄りが、忍者みたいにパッと消えるはずないよね」
忍者という言葉に、長谷部くんはアハハと笑ってから、「この路地沿いの家に住んでいる人かもしれないよ」と別の意見をくれた。
それは違うと、私は思う。
顔を隠して歩くほどに有名な俳優なら、一等地の豪邸か、タワーマンションの最上階に住んでいそうだもの。