副社長は束縛ダーリン

手に下げている買い物袋の中から、絹ごし豆腐のパックを取り出した。

それはふたつに分けられるようになっていて、点線部分から切り離し、おばさんに半分を差し出す。

味噌汁一回分なら、これくらいがちょうどいいだろう。


「あら、嬉しい!」と喜んでくれたおばさんは、「ちょっと待ってね、お代を……」とハンドバッグを開けている。

「五十円もしませんから、いいですよ」と断り、半月前にもらった、頂き物だという、すき焼き用の霜降り牛肉のお礼を述べた。


「あのお肉、とっても美味しかったです。ご馳走様でした!」

「いいのよ〜。うちは老人ふたりだから、油っこいものはいらないの。食べてもらえて助かったわ。またお願いね」


立ち話を少しして、私はおばさんと手を振り別れ、足を前に進める。

いい人だと思いながら、ふと気づいたのは、ゴミステーションで毎朝のように顔を合わせる知り合いだけど、あのおばさんが近所の人だということ以外、名前も家も知らないということだ。

向こうは、私の名前も、寿荘の二〇一号室に住んでいることも知っているようだけど。

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