副社長は束縛ダーリン
今度会ったら名前を聞いておこうと、この問題をアッサリ片付ける私。
こういうことは私の人生において、よくあることなので、気にするほどのことではない。
アパートまでの道のりですれ違う、顔だけ知っているご近所さんたちに「こんにちは」と挨拶しながら、やっと寿荘前にたどり着いた。
すると今度は、一〇一号室から出てきた住人と鉢合わせる。
その人は肩下までの黒髪を後ろできっちりひとつにまとめ、細身の体つきをした四十代の女性。渡辺さんだ。
二ヶ月ほど前に引っ越してきた人で、まだ何回かした会話をしたことがない。
「北さん、こんにちは」
「こ、こんにちは……」
少しだけ身構えてしまったのは、以前、悠馬さんが勘違いをして私の部屋に駆けつけてきた翌日に、苦情を言われてしまったからだ。
『彼氏を泊まらせるのはあなたの勝手ですが、振動が伝わってきて不快だったので、気をつけてください』
あのとき、口から漏れる甘い声は、なんとかこらえていたけれど、振動だけはどうすることもできなくて……。