【溺愛注意!】御曹司様はツンデレ秘書とイチャイチャしたい
 



「はぁー……」




トイレの鏡に映る自分の顔は、情けないくらい真っ赤だった。
熱を持つ頬にペタペタと触れ、ため息をつく。

平常心。平常心。
専務は動揺する私を面白がっているだけなんだから、いちいち反応しちゃだめだ。
私は秘書なんだから、いつも冷静でいなきゃ。

そう自分に言い聞かせ、トイレを出る。

専務が待っているロビーに向かっていると、こちらを見て驚いている男の人がいた。
あの人、なんでそんなに驚いているんだろう。そう思いながら通り過ぎようとすると、いきなり肩を掴まれた。

「きゃ……!」

咄嗟に腕を振りほどこうとした私に、彼は乱暴に両肩を掴み、顔を覗き込む。

「詩乃?」

そう名を呼ばれ、驚いて顔を上げた。
目の前の男の人を、まじまじとみつめる。

短めの黒い髪に、意志の強そうな目元。不機嫌そうに引き結ばれた口。
目の前の男の人が、記憶の中のまだ少年っぽさを残していた男の子と重なった。

高校でクラスメイトだった、千葉智紀。

「千葉くん……?」

私がぽつりとつぶやくと、目の前の彼は顔をしかめたまま頷いた。

 
< 122 / 255 >

この作品をシェア

pagetop