【溺愛注意!】御曹司様はツンデレ秘書とイチャイチャしたい
一体なにをしてるんだろうと彼の手元を覗き込めば、銀色の缶詰に、動物とも怪物ともつかない奇妙な生き物が描かれていた。
『……へたくそ』
思わず心の声が漏れた。
『え? ヘタ? かわいい猫ちゃんのつもりなんだけど』
そう言ってこちらに缶詰に描かれた絵を見せる。
かろうじて猫耳らしき三角の耳があるだけで、とても猫には見えない出来栄えに、思わず吹き出してしまう。
『じゃあ、君も描いてみてよ』
そう言われ、ペンと缶詰を押し付けられた。
少し戸惑って手の中の缶詰を見下ろしていると、『早く』とその人がせかす。
仕方なくため息をついてペンを握ると、私の手元を見ていた彼が吹き出した。
『うわ。人のこと笑えないくらいヘタ!』
『ひどい』
『だって、なにこのスライム状の生き物!』
『猫です! うちで飼ってる可愛い猫!』
『猫飼ってるのにこんなにヘタなの?』
ムキになってそう言うと、隣の彼が声を上げて笑う。
その明るい笑い声に怒るのがバカバカしくなってきて、思わず一緒に笑ってしまう。
灰色の濁流と化した川を眺めながら、名前も知らない人とふたり並んで肩を揺らして笑った。