【溺愛注意!】御曹司様はツンデレ秘書とイチャイチャしたい
 

変な人。

けれど、隣にいるのがなぜか不快じゃない。

ようやく笑いが収まり、猫らしき生き物の描かれた缶詰を手の中で転がしながらぼんやりと川を眺める。

『……で、なんで避難所に行くのが嫌なの?』

完全に油断して気を抜いている時にそう聞かれ、驚いて肩がびくりと揺れた。

『町内のほとんどの家はまだ電気も水道も通ってないから、避難所に行かないと不便じゃない?』

その言葉に動揺しながら首を横に振った。

『ね、猫を飼ってるので、避難所に連れていけないし、ひとりにするのもかわいそうだし……』

戸惑いながらそう言うと、その男の人は、頷きながら聞いていた。
口ごもった私を、じっと見つめる。

『それに、会いたくない人がいるし……』

視線に耐えきれず、心の声が漏れた。
こんなこと、この人に言ったって仕方ないのに。

『会いたくない人?』

繰り返され、口をつぐむ。
黙り込んだまま口を開こうとしない私に、その人は優しく笑った。

『俺でいいなら愚痴聞くよ。俺はここの人間じゃないし、きっともう会うこともないし、気にしないでなんでも話していいよ』

確かに、どうせもう二度と会うこともない。そう思うと私の口が軽くなった。

 
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