【溺愛注意!】御曹司様はツンデレ秘書とイチャイチャしたい
「似合うよ」
俯いた私に、専務が強い口調でそう言った。
「え……?」
驚いて顔を上げると、丁度車が赤信号で止まる。
ハンドルから右手を離した専務が、その長い腕をこちらに伸ばした。
「詩乃ちゃんは、ちゃんと可愛いもの似合うよ」
専務はそう言いながら、俯いたせいで顔にかかった私の髪を、長い指で梳くようにして耳にかけてくれた。
そしてそのまま私の耳の裏、普段決して人に触れられることのない柔らかな皮膚の上を、指先がすっと撫でる。
その、少し冷たい指先の感触に、思わず肌が粟立った。
狭い車内の運転席と助手席に座り、まっすぐにこちらを見る専務の視線に、どうしようもなく鼓動が早くなる。
男の人に、可愛いなんて言われたのは一体何年ぶりだろう。
「……詩乃ちゃん、ではなく冬木です」
かろうじてかすれた声でそう言うと、専務は目元を緩めて笑った。くしゃりと目尻が下がる、人懐っこい笑顔。
「まいったなぁ。詩乃ちゃんはほんとブレないよね」
専務は肩を揺らしながら私の耳に触れていた指を離し、ハンドルを握り直す。
信号が青に変わり、何事もなかったように車を発進させる専務。
その平然とした横顔を眺めながら、ドクドクと脈打つ鼓動を誤魔化すように、深呼吸を繰り返す。