花束〜Bouquet〜【短編】
「‥花束ね」
俺は今、家から程近い花屋の前に立っていた。
色とりどりの花が所狭しと並べられ、存在を主張し合っていた。
様々な花がそれぞれ特有の匂いを醸し出し、つんと鼻をさす。
“禁断の花園”とでも言おうか。
俺のようなむさ苦しい男が入っていいものかと、なかなか足が進まなかった。
「何かお花をお探しですか?」
店内から、まだ三十歳ぐらいの女性がエプロン姿で声をかけてきた。
「ああ‥まあ、はい」
綺麗にされている店と店員の華やかさにどぎまぎしてしまった。
「プレゼントか何かですか?それでしたら、やはりバラとか‥」
「かっ、かすみ草をください!」
店員さんの言葉に被せるように、そう言った。
それだけでどうしようもないくらい恥ずかしい。
店員さんは、にっこりと笑ってあの白い花を抱えてきた。
「こちらでよろしいですか?」
ただうなずいて見せた。
彼女は、かすみ草をプレゼント用として、ブーケのように包んでくれた。
彼女の慣れた様子を見て、きっと俺みたいな客が時々来るのだろうと、思った。
会計を済ませると、照れで赤く染まった顔をかすみ草で隠し、足早に歩を進めた。